2008年9月27日土曜日

連戦連敗は実力の証

こんにちは

今、X線自由電子レーザー施設の建設中です。
電子線加速器を収納する遮蔽トンネルの、厚さ2mの壁コンクリートを打設中。
ぼくは主に電気設備を担当しています。
このトンネルの中の照明をどうしようかと、考えている最中です。

既に完成した試験加速器用トンネルの照明も、ぼくがデザインしました。
幸い皆さんに好評で、「こんなに明るいマシントンネルは初めて」なんて褒めてもらいました。
調子に乗って今回もデザインしてみたんです。

電子を加速する加速器の中で、電子は1個1個飛んでいくのではなく、何万個、何億個と集団になって加速されます。
この集団を「バンチ」と呼びます。
で、バンチをイメージして照明デザインをしてみたんです。

リビングなどに設置する直径70cmの丸形の照明器具を、長さ400mのトンネルの壁に横付けする。
丸い照明器具が点線のように見えるように取り付けます。
きっと壮観だと思います。
それが加速器の中を飛んでいく電子バンチのように見えるといいなーと思いました。
これを見た人の8割は「とてもユニークでスバラシイ!」と言ってくれるはず。
2割の人は「何じゃこれ??」かもしれませんが。

ともかくこのデザインに自信がありました。
ところが提案してみると、不評。
照明ばかり目立ってしまう恐れがある、とのこと。
ガックリ。
勇気を持て、勇気を!なーんて思いましたが。

まーぼくの仕事は研究者が使いやすい、ほしいと思う設備を造ることです。
嫌だと言われりゃそれまでさ。
自信作も素直に引っ込めましたよ。

ひすいこうたろう+よっちゃん『Happy名語録』王様文庫\533-に建築家安藤忠雄さんの話が載っていました。。
安藤さんはコンペで設計を提案するときには、必ず「オマケ」を付けたそうです。

「こうするともっとおもしろいですよ」という+α。
もちろん建築として成り立つ基本的な条件は満たしつつ、オマケも付ける。
すると、どうなったか。

  連戦連敗(安藤さんの著書の書名ですね~)

安藤さんはついつい+αを付けてしまいたくなるんですね。
絶対こうした方がおもしろいって!という情熱があるんですよ。
でも、それが余計なことと見なされてコンペで負けてしまう。

コンペをやるくらいですから、大規模施設の設計なんだと思います。
国や地方自治体の発注する建築物ですから、結局は可もなく不可もなく、おとなしいものになりがちです。
個性的なものを選んで、それが失敗するのは嫌です。
コンペを選定する側にもそういう意識があるんですね。

けれども、そんなオマケを付け続けているうちに、安藤忠雄氏はどうなったか?
だんだんとオマケを受け入れてくれることが多くなった。
そして日本を代表する建築家、世界の安藤忠雄になってしまったんです。

ここで注意しなければならないのは、安藤さんはなぜ負け続けることができたのか、ということです。
普通、負ければ次がありません。
負けたものは実績にならないからです。
負け続けている設計家が、何度もコンペに参加できるわけがありません。
そもそも負け続けたら設計料を稼げなくて、設計家で居続けることもできないのです。

それは、安藤さんが別のところでは成功し続けたからなんだと思います。
小さな建築物かもしれませんが、賞を取ったり、たくさん依頼を受けたり。
そういう実績があったから、何度でもコンペに挑戦できたのだと思います。

内田樹『ひとりでは生きられないのも芸のうち』文藝春秋\1400-から引用します。

###
お忘れの方が多いようなので、ここで繰り返し申し上げるのであるが、「強者」というのは「勝ち続けることができるもの」ではなくて「何度でも負けることができる余力を備えたもの」のことである。「弱者」というのは「一度も負けられない」という追いつめられた状況にある人間のことである。
人間の強弱は最終的には「勝率」ではなく、「負けしろ」(そんな言葉は存在しないけれど)で決まるのである。(239p)
###

何度でも負け続けられる余力、負けても負けても挑戦し続ける勇気。
それを支えるためには、小さくてもいいからたくさんの成功と実績が必要なんですよ。
内田さんの言う「強者」は、<きょうしゃ>ではなく<つわもの>と読んだ方がいいですね。
ぼくもめげずにつわもの目指して、コツコツと小さな成功を積み重ねていきたいと思います。
また挑戦の場が用意されたとき、それに挑んでいけるように。

0 件のコメント: