2008年9月17日水曜日

技術者は悩まない

こんにちは

今一緒に仕事をしている若い技術者君が、技術的なことで悩んでました。
ぼくからすれば、何でそんな小さなことで悩んでるのよ、というようなこと。
さっさと調べたり、人に聞いちゃえば解決しちゃうのにね。
ぼくに聞いたっていいのに。
多少、恥ずかしい目にあうかもしれないけどね。
あはははは。

そこで若い技術者君に、技術者としての心得を一席ぶっちゃいました。
ぼくの今の本業は「設備技術者」です。
ぼくもこの仕事を10年一生懸命やってきましたから、技術者として大切な心得とは何か、一家言持っているんです。

技術者というのは、考えちゃだめなんですよ。
技術者が解決するべき問題は、たいてい過去に誰かが解決してある問題か、それらの組み合わせなんです。
たいていの場合、参照すべきデータが存在していたり、マニュアル化されている。

だからそれらを記憶しているか、すぐ参照できることが重要で、最初から自分で考え出す必要はないのです。
いちいち最初から考えていたんじゃ、時間がいくらあっても足りないんです。

マニュアル通り、過去のデータ通りやっても、どうしてもうまく行かない場合ももちろんありますよ。
その時は、自分で考えたり、みんなで工夫したり、研究的なアプローチも必要となってくるのは当然です。
まーめったにないけどね。
その場合でも、新たなマニュアルを作りだしていき、<技術化>していき、次に同様なことがあったら考えずに実行できるようにしていかなくてはならないと思います。

毛利衛『宇宙の風』(朝日文庫\600-)を読みました。
毛利さんはもともと科学者ですが、宇宙飛行士はもともと軍出身の「技術者」が多く、訓練中技術者と科学者の気質の違いを強く感じたそうです。
「技術者」として基本的な姿・態度はどうあるべきなのか、それが分かって面白かったので引用します。

###
宇宙飛行士というのは基本的に技術者です。
パイロット(操縦士)はきわめて専門的な技術者といえます。
宇宙ステーションにしても、完成させるまでは技術的な仕事が大半を占めます。
たとえばステーションの組立は大工さん、その一部は宇宙遊泳を必要としますが、それもいわば鳶職のようなもの、あとは電気屋さん、機械屋さん、コンピューター屋さんの仕事です。
「NASAの宇宙飛行士は高度の技術者集団」と定義できるかもしれません。
したがって、アスカンでも技術者としての訓練が大半を占めます。
技術者というのは、与えられた装置、状況下で、その装置のルールを知って上手く操作できるかどうかが求められます。
不具合があった場合も、マニュアルをさっと取りに行って、何が問題なのかを発見して、あとは地上と連絡を取りながら、マニュアル通りに直せるかどうかが期待されます。
###

宇宙飛行士という技術者は、常に生死と隣り合わせです。
宇宙でもしトラブルが起こり、適切かつ迅速な対処ができなければ、それはすなわち死を意味します。
あれこれ悩んでなんかいられないんです。
既に想定されていた対処マニュアルの中から、現状と整合しているものを即思い出せなければならないのです。
そしてそのマニュアル通りに実行していく必要がある。
宇宙飛行士は「究極の技術者」の姿であると言えます。

ぼくら地上で安穏と仕事をしている技術者だって、理想は宇宙飛行士なんです。
ぼやぼや悩んでいちゃいけないぜ。
悩んでいるうちに後手に回って、被害が拡大するなんてことは日常茶飯事。
問題解決のために、即実行に移せることが理想なんです。

悩まずに実行するにはどうするか。
先ずは自分の知識を増やしていくことです。
こういうときはどうすればいいのか、たくさんのデータを頭に入れる。
本から学んでもいいし、経験したことを忘れないようにすることも大事です。
もちろん、インターネットで調べることも大切です。

そして何より人脈です。
困ったことがあったとき、聞くことができる先輩、上司、友人、部下がいるかどうか。
自分だけの学び、経験は、ごくごく狭いのは当然です。
でも一人ひとりの学び、経験を合計すれば、とてつもないデータベースになっているわけです。
だから誰かに聞けばいいんです。
聞いたり聞かれたりできる関係が、すなわち人脈なんです。
困ったときに誰にも相談できない、誰に相談したらいいか分からない人は、人脈のない人なんです。

人に聞くときも、自分だけが一方的に聞く側ではいけません。
誰かが困っているとき、知恵を貸せる存在に自分がなっていないとだめ。
そうじゃないと長続きしません。
相互扶助こそが人脈の要件だからです。
だから、学んでこなかった人、学ばない人はいつまでたっても人脈はできないのです。

人間の脳は、メモリーベイスドアーキテクチャ(記憶を基にして思考する構造)であることが、近年の脳科学の発達で分かってきました。
素早く的確に考えるためには、ある程度のきちんと整理された記憶がないとだめなんです。
だから、本や経験や他人から学び続けないとならないのです。

そして必要なときに即、必要な「技わざ」を繰り出す「術すべ」を持っている人が、優秀な技術者なんだと思います。
何時間も何日も悩んでいるような人は、技術者の名に値しないということです。

0 件のコメント: