2009年9月7日月曜日

三案つくれ!

こんにちは

今建設中のXFEL実験棟には150人くらい収容できる大会議室、ちょっとしたホールが設計されています。
小規模な研究会なら、40~50人収容のセミナー室で対応できる。
数百人規模の大規模な学会なら、姫路など近隣都市の市民会館などでやる方が便利。
でも、100人程度の中規模の研究会をやる会場がなかった。
公共ホールではガラガラ、セミナー室では入りきれない。
ようやく中規模なホールを造るチャンスが巡ってきたのです。
これが完成すれば、SPring8キャンパス内でやれる研究会の幅が広がり、研究の活性化にもつながります。

実際に造る前に、建築、電気、機械設備をひとつの図面に落とし込んで、総合図を描き、全体の整合性を確認します。
その図面を見て、「あ、このまま造ったんじゃダメだ」と思いました。
ぼくは設備担当なので、建築設計の細かなことまで設計段階でチェックする余裕がありません。
総合図の段階で初めて詳細が分かったのです。

以前はぼくもデザインについてはぼくの職権外だと思って、あまり口を出さないようにしていました。
が、ぼくがこれ変だな、と思ったものは、ほぼ確実に造ってから多くの人も「変だ」と言う。
そういう経験を多くしてきたので、意見を言うようになってきたのです。
ぼくの年齢も上がってきて、意見を言ってもそれが通るようになってきたこともありますけどね。

さて、確かに大会議室のデザインは斬新で、XFELという最先端の研究施設にふさわしいものになっていました。
でも、デザイン優先の設計になっているため、音響特性が悪い、有効容積が狭く内部の居住性が悪い、保守メンテもやりにくい、施工もトリッキーな仕組みになっていて施工しにくく安定性にかける、ことが分かったのです。
うち合わせでぼくは「これじゃダメだよ。設計を変えよう」と提案しました。
ところが、このデザインは基本設計時にセンター長がお気に入りだったもの、とのこと。
ぼくら現場担当者だけで変更することはできないものだったのです。
困りました。
このまま造ったら必ず将来に禍根を残します。

幸い、内装を決定するときに、最終的にセンター長にもプレゼンすることになっていました。
このチャンスを逃してはいけない。
内装プレゼンの日程を現地担当者に調整してもらいました。
忙しいセンター長ですから、ぼくの都合に合わせてもらうわけにはいきません。
プレゼン日程は、ぼくが神戸スパコン定例うち合わせの日と重なってしまいました。
でも、その日の夕刻から。
これなら間に合う!
スパコンのうち合わせを午前中に終わらせ、それからSPring8へと向かうことにしました。
ちょっと無理な出張になっちゃいましたが、ここが頑張り所と判断したんです。

プレゼンのために設計スタッフにこう指示しました。

 3案造りましょう。
 ・ひとつは設計通り。
   センター長お気に入りだったのだから、これを外すわけにはいかない。
 ・もう一つは音響特性のいいもの。
   設計とかなりデザインが変わってしまうが、機能重視だとこうなる、
   ということを示すために。
 ・そして両者の中間のもの。
   設計のデザインを残しつつ、機能にも配慮したもの。

つまり、両極端なものとその中間のものですね。
ぼくの目論見はこうでした。
機能重視のものを見せることによって、原案のよくないところをハッキリ見せる。
けれども、以前決定したことを全部反故にするのは誰もが嫌でしょうから、その中間のものを用意する。
原案のイメージを十分残しつつ、原案のデメリットをほぼ解消するものです。
極端と極端を提示し、その中間のものを持ってくる。
そうやって、中間案に持っていこうという算段です。
ま、日本人は中庸が好きですからね。
結果として、センター長も中間案に同意してくれました。
しめしめ!

長野慶太『アホな上司はこう追い込め!』光文社¥1000-にこうありました。

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(交渉とは)具体的には「賛成」「反対」「譲歩」のカードの切り方であり、どんなに優秀な手持ちカードの内容であっても、カードの切り方を間違えると負けてしまうということだ。
小泉政権の道路公団民営化のとき、民営化推進委員会の委員はみんなそれぞれ自分の正論をメディアに叩かれた。
しかし決定的に「負けて」しまったのは、最後まで「譲歩」カードを切らなかった委員だったというのがわれわれに訓示を与えてくれる。
自分が100%正しいと思う信念の強さは必要かつ立派だとしても、組織を動かそうと思った場合、「100」を通そうとするとかえって「0」になる。(182p)
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本音を言えば、ぼくだって機能重視の理想でこの会議室を造りたかった。
と言っても、ぼくの理想はここでコンサートをひらけるような音響特性を持ったホールなんですが。
ここでコンサートはめったにしないでしょうから、強引に自分の案を押し通すことはしません。
譲歩案に導くのが、結局は自分の理想へ近づく近道なんです。
大会議室のデザインは中間案に決まりましたが、十分コンサートにも耐えるものにできそうです。
やったー!
そのために、三案つくれ、なんですよ。

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