2009年11月17日火曜日

棟梁になりたい!


こんにちは

先日、来年度我が社へ入社する内定者の若者諸君を、我がスパコン棟建設現場に案内しました。
若者たちからその感想が届きました。
若者といってもそんじょそこらにいる若者とは違います。
理研に入ろうという、日本の科学技術を背負って立つぞという志のある「変人」たちです。
感想文には知性も教養も感じられました。
その中にこんなことが書いてありました。

 神戸研究所の次世代スーパーコンピューター施設の建設現場では、まず外観で、
 コンピューターが入る建物として想像していた以上の施設規模に圧倒され、
 内部に入って、それぞれ直下から送風して冷却しなければならないほどの
 コンピューターが立ち並ぶ様子を想像してまた圧倒されました。
 こちらも運用開始されてからでは入ることができないだろう空間、特に免震装置が
 連立する地下の免震階にまで入らせていただき、精密で巨大な施設を建設する現場を
 肌で感じることができました。

よろしい、よろしい。
やはり実物はインパクトありますよね。
大きな仕事をしていくということを、実物を見ることによって肌で感じる。
若者の心にしみ通ったことと思います。
さらに、こういうことも書いてくれた若者もいました。

 建設現場で説明して下さった関口さんは、最初現場で働く棟梁さんかと
 勘違いしてしまったほど現場に馴染んでいらっしゃって、こんな大きな
 施設の建設に立ち会えることをとてもうらやましく思いました。
 もし私がこの現場にいたならば、この先長く働き続ける施設の設立に
 関われたことは一生の誇りになるだろうと思います。
 理研の事務職員の業務内容の幅広さを改めて実感し、ますます楽しみになりました。

おーー、嬉しいですねー。
変人は変人の価値が分かるんです!
棟梁とはぼくにとって最大級の賞め言葉です。
なぜならぼく自身、棟梁を目指して毎日仕事を熱くしているんですから。
では、ぼくの考える棟梁とはなにか。
『本の話』文春PR誌08.5にあった塩野米松「棟梁」から引用しますね。

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いくつもの職業の「トウリョウ」に会ってきた。
トウリョウは組織や一団の一族の頭である。
法隆寺・薬師寺の宮大工棟梁であった西岡常一氏から、大工や宮大工のトウリョウは「棟梁」と書くが、他の多くは「頭領」と書くのだと聞いた。
宮大工の棟梁は諸職の頭を集めて、仕事の段取りを打ち合わせ、指示を出す。
仕事のすべてを統括する。
それはとりもなおさずすべての責任を取るということである。
責任のとれない者は、仕事を指示し、人を束ねる資格がない。
棟梁の最大の仕事は人心を掴み、職人達に意図通りの仕事をさせることである。
職人はその仕事に満足し、そこで働いたことを喜び、そこで自分の技をほんの少しであれ進歩させることを自覚するのである。
棟梁の仕事は仕事のすべてを細々としたところまで知っていることではない。
棟梁は頭領に任せる。
頭領は職人に任せる。
職人は任された仕事を全うする。
それを支えているのは、腕はもちろんのことだが、後に引けない責任感と誇りである。
責任が全うされないところにすばらしい仕事はない。
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そうなんです。
棟梁とは読んで字のごとく、棟(むね)と梁(はり)。
鉛直方向の加重を支える棟と、水平方向の加重を支える梁。
建物を支える構造物なんです。
どちらも建築物になくてはならないものであり、最も基本となるもの。

棟梁の仕事はそれと同じ。
すべてを支え、すべてを統括し、すべての責任を取る。
棟梁がいないと、仕事は屹立しないんです。
棟梁がしっかりと棟と梁を用意するから、あとの仕事が安心してスムーズにできる。
関わるすべての人たちがよい仕事をし、満足感を得る。

ああ、若者たちを案内してよかったなー。
ホントは早く家に帰って子どもたちと遊びたかったんだけどね。
ま、こういうちょっと余分な仕事がぼくの腕を上げ、評価も上げてくれるんだと思っています。
苦労する甲斐のある仕事は買って出るのが主義。

とはいえ、まだまだ道半ば。
とても自分が棟梁になれているとは思っていません。
薄紙を積み重ねることを日々怠らず、ちょっとでも棟梁へと近づいていきたいと思っています。
それにね、まだこの歳で棟梁になっちゃったなんて、つまらないしー。


ところで鳩山内閣。
先週11/13の行政刷新会議ヒアリングで、我がスパコンプロジェクトも「ムダ」と判定されてしまいました。
同日、スパコンプロジェクトにも協力していただいている三浦先生が、シーモアクレイ賞を受賞したというニュースが入ってきました。
我がプロジェクトリーダーである渡辺さんに続いて、日本で二人目のクレイ賞受賞です。
クレイ賞は、コンピュータハードウェアの開発に世界的貢献のあった人に贈られる賞で、この分野のノーベル賞とも称されています。
日本人が二人も受賞しているってすごいことですよ。
そもそも世界初のマイクロプロセッサであるインテル4004は、日本人である嶋正利さんがメインになって開発したものです。
つまり、日本には高性能コンピュータを開発する人的資源が豊富である、という証明です。
これを活用しないでどうするというのでしょうか。

同じく同日、新しいスパコンtop500も発表されました。
上位をアメリカが独占しているのは変わりませんが、中国や韓国も上位にランクインしています。
日本は世界の中どころかアジアの中でも沈没しかかっているのです。
スーパーコンピュータは今や計算科学だけに必要なのではなく、実験科学にも必須なツールなんです。
コンピュータなしには科学技術は発展しないといってもいい。
はたしてそれが「ムダ」なんでしょうか。
文部科学省HPでパブリックコメントを募集しています。
ぜひみなさんもコメントをお寄せください。
応援、ご協力、よろしくどうぞ!

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