2010年7月28日水曜日

記録を取れ、論文を書け


こんにちは

ようやく加速器学会で発表する論文を書き終えました。
今年はXFELマシン交流電源について、電圧変動率を中心に報告しました。

電気品は使用電圧の範囲が決まっています。
電圧が高すぎても低すぎてもダメ。
どちらの故障や事故の原因になります。
家庭に配線されている電気は、電気事業法という法令で電圧の範囲が決められています。
100Vは「101V±6V」に、200Vは「202V±20V」と決まっているんです。
普通の人でも、高い電圧は危険なことは知っているでしょう。
高い電圧で、機器類の絶縁が破壊されショートしてしまう。
でも低い電圧も危険であることを知っている人は少ないようです。

電圧が低くなると、同じ電力を得るためには電流を増やさなくてはなりませんよね。
電力=電圧×電流ですからね。
電流が増えるとそれだけ機器が発熱します。
その熱によって機器が壊れてしまったり、時には発火して火災になることさえあります。

特にモータは電圧が低すぎると、回転が始まりません。
モータはスイッチを入れて回転し始めるときに、たくさんの電流が流れます。
これを始動電流といいます。
回転数が定格に近づくにつれて電流値も定格電流まで下がってきます。
ところが電圧が低すぎると回転がはじまらないために、いつまでも始動電流が流れ続けてしまいます。
たくさんの電流が流れれば発熱しますし、長時間それが続けば温度も上がります。
やがては電線が燃える温度まで上昇し、焼損、火災へとつながります。

加速器など精密機器も供給電圧の安定性が重要です。
もちろん焼損、破損しないためでもありますが、安定して稼働させるためです。
白熱電球だって、電圧が高いと明るく光り、電圧が低いと暗くなる。
一定の明るさで光らせるためには、一定電圧の電気を供給しなければいけないのです。
まして精密機械である加速器は、供給電圧が一定(ある範囲に入っている)じゃないと、所定の性能が出ないのです。
ぼくはXFELマシン交流電源を担当して造りましたから、電圧変動を抑えるためにいくつかの技術を組み合わせてそれを実現したんです。
それをレポートにしたわけです。
加速器の研究者は普通、与えられた給電電圧で運転したり、実験したりしているわけで、あまりソース側の電源設備のことは知らない。
だからぼくのつたないレポートでも役に立つんじゃないか。
そう思うのです。

でも普段の仕事をこなしつつ、家庭での団らんも確保しつつ、論文を書いていくのはやっぱり大変な「苦労」ですね。
それでもやり遂げると、気分はいいです。
書いてみるといい加減な知識も整理され、不足した知識も勉強しなおす機会になります。
自分の技術、腕も上がります。

苅谷夏子『優劣のかなたに』筑摩書房\1600-にこんなことが書いてありました。
生涯現役国語教師だった大村はまさんの言葉です。

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自分のやった仕事のいいところ--これはうまくいったというのを書き残しておく。
これは仕事に対する愛情ではないでしょうか。愛着のようなものです。
自分の仕事がとてもかわいくなって、そして、やっぱり腕前の上がることではないかと思います。
そうやって、自分で自分の仕事を愛するということが、結局いい仕事のもとになるのではないかと思います。
自分の仕事を愛して、自分の足跡を愛して、それをちょっとでも残しておけば、育てようとしなくても、そんなにまで仕事を愛している人は、どこか育ってくるのではないでしょうか。(大村、130-132p)
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記録をとれば、今どこまで進んでいて、これから何が必要となるかがはっきり見えてきます。
だから仕事の完成度も上がっていくわけです。
そればかりではありません。
記録をとることは、自分の仕事をかわいがることになるんです。
ぼくも教師時代はかなり授業記録を書いていました。
へたくそな字でそれを学級通信などで家庭にも伝えていました。
教師時代のことを今でもよく覚えているのは、やはり記録し続けたからだと思っています。
だから今も、まったく別な仕事をしていますが、基本は同じだと思って書き続けているんです。

自分の仕事をきちんと評価し、記録を取り、それを論文としてまとめる。
そうやって自分の仕事を愛することができれば、愛着も湧き、いい加減なことができなくなります。
よりいい仕事ができるようになるってわけです。
ちょっと大変だけど、やりがいのあることだと思っています。


写真は和光研に建設中の脳科学センターの新しい研究棟の模型。
真四角じゃない建物は初めてなので、このチャンスに構造の勉強もしています。

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