2010年8月19日木曜日

考えることを怠るな


こんにちは

「関口さん、このカードリーダ感度が悪いんだよ」
スパコン棟を見学にいらした科教協のみなさんを玄関でお見送りしたあと、そこにいた技術系トップの方に言われました。
スパコン棟はICカードによる入退管理システムを設置しています。
エントランス部分は駅の改札と同じようなフラッパーゲートを取り付けました。

我が社は社員証がスイカと同じフェリカカードになっていますので、これを認証カードとして使ってセキュリティシステムを構築しています。
ちなみにフェリカカードもソニーの開発品です。
CD(コンパクトディスク)もリチウムイオン電池もソニーの開発品です。
松下幸之助が「ソニーは日本の研究所だ」と言ったのは、本当ですね。

話を戻して、さっそくぼくのIDカードで試してみました。
動作は正常にしますが、確かに若干感度が悪いようです。
カードをしっかりとタッチさせないと感知しないんです。
これだと多人数が入館する朝の出勤時には困ることもあると思いました。
入館装置のところに渋滞が発生してしまいますからね。

アナログな機械なら自分でちょちょいと直してしまうところですが、精密機械なので自分ではいじれない。
すぐ施工を担当した方へ電子メールを入れました。
そんなに困ってはいないけど何かのついでに見て欲しいと。
さすが優秀な技術者君、すぐ返事が来ました。
返事が早いのは能力が高い証拠なんです。
返事をするってことは、即行動に移すってことです。
さっと考え、さっと行動を始める。
すぐ問題は解決するってわけです。
有能さは問題解決の速さで決まるんです。

> フラッパーゲートの件ですが、
> 8月6日(金)10:00~ 作業でお願いいたします。
> 作業内容
> ・フラッパーゲート内組込みカードリーダーを新品に交換します。
> また、カードリーダーの取付位置をカードをかざす面へ多少移動してみます。

この返事を読んで、ちょっとひっかかるところがありました。
新品に交換する、ってところ。
ぼくはこう返事を書きました。

 くれぐれも安易に「部品を交換してオッケー」みたいにはしないでください。
 現状をよく把握し、原因を特定して、対応をする。
 それが技術者の生きる道だと思います。
 もちろん限られた時間での対応ですから、原因を完全には特定できないかも
 しれません。
 それでも、原因は何か、ということを抜きにした修理は、長い目で見て
 お互い損なことだということはご認識いただくようお願いいたします。

ちょっと厳しいですか(笑)。
今の日本はちょいと異常だと思っていて、モノの値段が極端に安い。
その代わり、人の値段が高いと誤認されている。
なので、なるべく人は使わずモノで解決しよう、その方が安上がりだと思われているんですよ。
だから修理も、不具合のある部分を交換してお終い、ということになってしまう。

もちろん今の精密機械は、プリント基板にすべてがセットされていたりして、基板ごと交換以外にやりようがないということも多いのは事実。
でもそれじゃあ技術者の腕は上がらないと思うんですよ。
技術というのはコストも重要な要件ですから、無制限に調査、検討はできないのは分かります。
でも部品交換をファーストチョイスにはしてもらいたくない。
時間とコストの許す範囲で、不具合原因を調査、検討し、原因を特定する努力もしてもらいたかったんです。
そうすることが技術者としての経験値を増やし、今の不具合を直すだけじゃなく、将来の不具合を防ぐ「素」になるんだと思います。
いつも言っていますが、経験を意図的にする、ってことです。

で、結果はどうだったか。
原因が分かりました。
技術系トップの方やぼくの所持しているICカードは数年前に製作された古いタイプのものだったことがわかりました。
フェリカカードは中にICという電子部品が入っており、そこにいろいろな情報を蓄えることができる製品です。
カード内部のICとカードリーダとで情報をやりとりすることによって、ドアを開放したりするわけです。
情報のやりとりは電波を使って行われます。
電波を送受信するために、カードの中には渦巻き状のアンテナが仕込まれているのです。
古いタイプのフェリカカードは、この渦巻きアンテナの巻数が6巻だったのです。
それに対して新しいタイプのカードは、アンテナの巻数が7巻に変わっています。
巻数が多い方が感度が高くなります。
設置したフラッパーゲートを試験調整したときは、新しいタイプのカードを使って行いました。
感度がいいですから、今のセンサー位置でも正常動作したわけです。
ところが古いタイプのカードはアンテナ巻数が少ないために感度が悪く、不具合となってしまったわけです。

原因が分かれば対策も分かる。
感度が悪いのだからセンサー位置を近づければ直ります。
フラッパーゲートに組み込まれたカードリーダ位置を検知部に近づけるよう改修してくれました。
それで万事解決!
カードリーダを交換することは必要ありませんでした。

森博嗣『創るセンス 工作の思考』集英社新書¥700-にこうありました。

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既製の大量の部品から選ぶ、既製のソフトの上でカスタマイズする、ということが「技術」になってしまった。
知らず知らずのうちに、求めているものずばりではなく、近いもので満足するしかなくなっている。
「カスタマイズはできるが、かなりの無駄を含んだ製品」ばかりになった。(66p)
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部品交換で何事も解決しようとすると、技術者も考えることをやめてしまいます。
確かに新品の完全動作品と交換してしまえば、あっという間に直ってしまいます。
それが時代の趨勢とはいえ、それはつまらないことだし、反って損なことだと思います。
社会全体にとっても、多くの無駄を含んだものになってしまう。

そもそも考えることをやめてしまえば、技術力は上がりませんし、そもそも技術者として面白みもない。
面白くない仕事は苦痛です。
苦痛なことをしている人の心は荒れていきます。
面白くない仕事をしている人ばかりの社会は、住み心地も悪いものになってしまうと思うんですよね。

だからできる範囲ででもいいから、部品交換、部品のカスタマイズから抜け出す。
考えながら直したり作ったりしていく。
これは技術の世界だけじゃなく、どんな仕事にも、家事でも育児でも同じなんだと思います。
既製品ばかりではなく、自分で考え、行動に移す。
そういう態度と習慣が楽しい人生を造り、社会を住みやすくしていくんだと思っています。


ところで、森博嗣『創るセンス 工作の思考』は技術者必読の本だと思います。
推理作家の森さんはもともと材料工学の研究者であり技術者でした。
森さんの技術に対する思想がこの本には書かれており、面白いですよ!

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