2011年5月18日水曜日

自動制御なんてクソくらえ!


こんにちは

昨日は東京明治記念館に行ってきました。
空調衛生工学会学会賞の授賞式に参加するためです。
ぼくが造ってきたXFEL棟が技術賞を受賞したからね。
明治記念館は由緒ある宴会場で、結婚式なんかも行われている晴れがましい場所です。
そんなところにいつもの作業着首タオル姿で行っちゃいましたー。
あはははは。

さてさて今回の受賞は、装置冷却水設備というこれまでの加速器施設では加速器装置の一部として設置してきた設備を建家建設工事の一部として施工したことが一つの受賞理由です。
実験設備に近い設備、実験装置と直結する設備を建設工事で施工し、かつこれまでよりもよいものができた。
もちろん金と時間さえかければ、加速器装置として作ろうと建家機会工事として作ろうと、いくらでもいいものができるわけですが、限られた予算、限られた時間の中でやりきったというところがミソかな。

ところでぼくは自動制御が嫌いなんです。
ぼくはXFEL建設工事を通じて、ずいぶんと自動制御にも詳しくなりました。
FL-netを採用し、PLCで制御することで、加速器と一体的な運用ができるようにしたからね。
でも嫌いなんです。

自動制御は、ある条件を設定して、その範囲では自動的に最適運転するようにプログラムしてはある。
が、特に実験室、実験設備の場合は、その条件とはずれることも多いし、追従が遅くなるんです。
だから一番いいのは、常に現場で実験室や装置の状況を観察して、手動で制御する。
人間の判断のほうが最適運転できるんだと思っているんです。

でも24時間現場で見て操作するなんてこともできませんし、人間にはヒューマンエラーも起こりえます。
だから自動制御も必要だとは思うんです。
でもそれに頼りすぎる人が多い。
自動でやってくれるんだから楽でいいや、って不届きな技術者がけっこういるんですよ。
なにかトラブルがあっても、自動制御がちゃんと動いてくれなかったからだ、と言ったりね。
じゃあ君は何をしていたのかね?って思っちゃいますよ。

自動制御はあるにしても、状況に応じて自分でそれをチューニングしていく。
パラメータを変えたりして、バランスを見てみる。
時にはマニュアル運転をしてみて、設備の特性をつかむ。
そうやって試行錯誤しながら徐々に最適運転に近づいていく。

先日あった空調冷凍学会の発表の中に、面白い事例がありました。
東京のトリトンスクエアの地冷暖は、運用開始して8年経ちますが、年々エネルギー効率が上がっているそうです。
どうしてかというと、運転員の人たちが試行錯誤しながら最適運転のためにチューニングをし続けているからだそうです。
運転員の人たちがいじれる部分が多い設備なんですね。
工夫する余地が広いんです。
そうやって成果が出ると運転員の人たちも嬉しくなり、評価もされます。
もちろん技術者としての腕も上がる。
ますます現場を見て、考え、工夫し、改善する好循環が生まれていくんです。

ぼくのそんな考えから、XFEL棟は何でもかんでも自動制御しちゃうのはやめにしたんです。
人間の判断で手動で冷凍機台数を変える、など技術員の裁量に任せる部分を多くしたんですね。
加速器は運転モードによって負荷が大きく変わるので、自動制御しがたい施設であるってこともありますが。

あ、気づきました。
ぼくは自動制御が嫌いなんじゃなくて、自動制御に頼る人が大嫌いなんでした。
ぼくが造った設備でも、「ちゃんと自動制御が働かないのはおかしい」というクレームが来ることがあります。
たいていは、設定値やパラメータを変更すればうまくいく。
現場の状況を見て、どんな設定値にしたらうまく制御できるか、パラメータをどう変えるといいか、まったく考えていないんです。
自動制御なんだから、どんな時でも自動でうまく制御するのがあたりまえだろう、という態度。
自動制御に頼る人は、技術者としての腕が上がりません。
それで人生楽しいのでしょうか。

鹿島茂『セックスレス亡国論』朝日新書¥700-に面白いことが書いてありました。
人は自由を求める存在です。
人々の求める自由には二種類ある。
ひとつは「やりたいことをやる自由」、もうひとつは「やりたくないことはやらない自由」。
で、どちらの自由を好むかで人生が正反対になってしまうのだそうです。

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負け組は「面倒はイヤだ、ラクしたい」という自分の欲望がカネさえ払えば満たされると思っているんですが、その実、時間も労力も、なにもかも代行業者に吸い上げられて、ますます負のスパイラルにはまり込んでいく。(略)
「面倒くさいこと」は金で解決というところから始めてしまうと、最終的には、能率的に事を運ぶ「楽して儲けるスタイル」の逆になってしまうのです。(26-27p)
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自動制御に頼る人は「やりたくないことはやらない自由」を選択した人だと思います。
つまり、面倒なんですね。
面倒なことは自分でやらず、誰かにやってもらいたいだけ。
今の世の中は金さえ出せば、面倒なことをやってくれる人は必ずいます。
設備の設定変更、パラメータ変更だって、メーカーに依頼すればやってくれるんです。
メーカーの技術者も、呼ばれたときその時点の状況を確認して、設定なりパラメーターなりを変更します。
その時点ではうまく制御できるようになる。
でも状況はどんどん変化していきますから、また現実と合わなくなってくるんですよ。
面倒なことは連綿と続いてしまうのです。
こういう人は、楽して損してる、と思うんですよ。

だから「やりたいことをやる自由」を選択したほうがいいってぼくは思います。
現場をよく見て、肌で感じて、考え工夫し、やってみる。
うまくいったりうまくいかなかったりするでしょう。
でもその中から現象の本質をつかむことができるんです。
そうやって徐々にでも能率的に事を運ぶことができるようになります。
結局のところ、ラクして儲けることができるようになっちゃうんです。

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