2011年6月15日水曜日

合格点をたたき出せ


こんにちは

昨日はSPring8で仕事でした。
5月末にXFEL実験棟の完成後1年目の検査をしました。
その時に、この建物の講堂に設置した300インチ大画面プロジェクターの不具合が見つかりました。
投影した画像が5mmほど上下に揺れるんです。
人間の目の分解能は高性能です。
10m程度離れた客席から見ても、その揺れが分る。
この不具合を直しに行ったんです。

スクリーンは揺れていないので、プロジェクタ側が揺れている。
この揺れを抑えればいい。
プロジェクタは天井から吊ってあるので、先ずはここを補強してみようということになりました。
天井が高いため吊り材も長く、それが揺れの原因だろうと推定しました。

こういう時にラジカル=根源的な解決法を求める人がいます。
プロジェクタをメーカーに持ち帰り調査しろ、とかね。
ぼくはそういうの、嫌いなんだなー。
もちろんメーカーの工場に持ち帰ってしっかり調査しなくちゃいけない時もありますよ。
でも、最初は現場でできる処置をしてみるのが正しいと思うのです。
現場であれこれ工夫してみる。
それで是正できたなら万々歳だし、是正できなかったとき初めて、取り外してメーカーに調査依頼すればいいと思うのです。

最初からメーカーに持ち帰れ、という人は、たいてい自分では何もやらない人。
自分でやれることをやらないで、他人にやらせることしか考えない人が、あんがいラジカルな方法を選択するんです。
まあ自分であれこれやるだけの技術力もないってことなんでしょう。

プロジェクタを持ち帰ってしまったら、その間大講堂が使えなくなってしまいます。
代替機を持ってくるとしても、取り外し、最取り付け、配線替えなど手間暇も増えます。
そもそもこれだけの大画面を投影するプロジェクタの代替え品を簡単に用意するのも難しいはずです。
こんなことをやっていたら、いつこの問題が解決するか分からなくなってしまいますよ。

その間困るのはこの講堂を使う研究者たちです。
プロジェクタを完璧に直すことより、研究が滞る方が損失が大きいんです。
完璧に直すことは必要ないんです。
合格点を取ることが大切。
しかも迅速にです。

天井から吊ってあるプロジェクタ四隅にワイヤーを取り付けて、そのワイヤーを斜めに天井に固定し、引っ張りました。
上下方向だけではなく、平面方向にもテンションを掛けて固定してみたんです。
結果は良好。
画像の揺れは1mm程度に収まりました。
これなら客席から見て揺れは感じません。
十分合格点が取れたと思います。
もう明日からこの講堂の使用が可能になりました。
作業してくれた方々に感謝です。

期日までに合格点をたたき出すこと、すなわち「プロジェクト志向」です。
100点じゃなくていい、60点で十分だってことは世の中にたくさんあります。
たとえば入試。
入試でも100点を取る必要はない。
合格点を取ればいいんです。

有井博之『中学受験偏差値40からの合格時間割作戦』にこうありました。

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出そうもない部分を勉強するのは効率が悪い、不得意科目を満遍なくやることも効率が悪い。
こうして捨てて、その代わり残ったところは「これでもか」というほど徹底的にやる(157p)
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ぼくはサイエンスカフェで子どもたちに「好きなことをとことんやろう」と言います。
好きな科目は100点じゃもったいない、200点、300点、400点・・・を目指せ、ってね。
で、好きなことをとことんやっていくと、不思議なことに嫌いなことがなくなっていくよ、と伝えるんです。
なぜ嫌いなことがなくなるか、というと「プロジェクト志向」に他なりません。

たとえば科学者になりたくて、大好きな理数科目ばっかり勉強する。
でも一流の科学者になるには大学に、それも一流大学にはいらなければ困難です。
でも大学入試には、国語や社会科など嫌いな科目もある。
これを避けて通ることはできません。

でも入試って合計点が合格点であればいいわけです。
得意科目で点数を稼げるのなら、その分不得意科目の点数は低くてもいい。
嫌いな科目でも、平均点の半分くらいならごくわずかな勉強で達成可能です。
やりたい科学の勉強のためなら、嫌いな科目で平均点の半分くらいになるまで勉強するくらいは我慢できるでしょう。
やりたいことのために、多少の犠牲は伴うものだからね。
長時間嫌いな勉強を続けるのは無理ですが、短時間ならやれるものです。

で、不得意科目は満遍なくやるのではなく、出題されそうな分野だけ、さらに合格するのに必要な点数分だけやる。
その代わり、その部分だけはとことん完璧に勉強するんです。
確実に最低ラインをクリアできるようにね。
ここでも、とことんは大切なんです。

そんな勉強をすると、嫌いな科目でも面白みがわかってくるんです。
嫌い嫌いって、実は食わず嫌いなんですよ。
嫌いだから勉強しない、勉強しないからわからない、わからないから嫌いになる。
そういう悪循環の中にいたわけですね。
でも、合格最低点を取るために割りきってちょこっと勉強してみる。
すると案外どの教科だって面白いもんだってわかるんです。
面白みがわかると、もうちょっと勉強したくなったりします。
そんなことをやっていれば、嫌いなことがなくなるのも当然なんですよ。

ただし、これは好きなことをとことんやっていたからできることです。
ある分野でアドバンテージがあるからできること。
だから先ずは好きなことをとことんやるのが正道。
そうすれば、好きなことをやり続けるために、嫌いなこともちょこっとやれるだけの余裕が生まれる。
プロジェクト志向なんですよ。

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