2012年4月27日金曜日

明るい光のつくり方

こんにちは

サイエンス・カフェが終わった後、すんごく楽しくできたときはお客さんがなかなか帰ろうとしません。
ぼくともっとお話したいんですね。
 嬉しい、嬉しい。
感想を言ってくれたり、質問してくれたり。
楽しい時間を過ごせます。
そこが、沢山の人に対してお話する講演会と違うところ。
カフェはいいねー。お座敷だったけど(笑)。

先日の和光一般公開カフェでは、20代前半とおぼしき若者からこんな質問をされました。

「なぜ放射光は前方に放射されるんですか。
光が電子が動くことによって放射されるなら、普通のアンテナみたいに四方八方に放射されるはずなのに」

おー、グッドクエスチョン!良い質問です。

実はこれ、ぼくも最近ちゃんと理解できたことなんですよ。
ぼく自身もずっと同じ疑問を持っていた。
いろんな説明を読んだり聞いたりはしていましたよ。
いわく、電子の周りにある仮想光子が、電子が加速度を受けた時に引きちぎられて飛んでいく。
いわく、相対論的効果で前方へ放射される。
ちんぷんかんぷんでした。

これらの説明は、説明しているようでしていない。
まるでケムに巻いているようです。
特に「相対論的効果」ってのは幻惑的です。
われら日本人は相対論というのにおかしな幻想を持っています。
アインスタインのキャラがそうさせているんでしょうか。
難解な、でも魅力的な理論。
だから「相対論」と言われると、それは黄門様の印籠のように、へへーとなっちゃう。
自分には理解できない難しい原理なんだろうな~って。
相対論の難しい数学を解かなくちゃ理解不能なんだろうな、って。

でもそれほど難しくはなかったんですよ、ホントは。
分かってみるとカンタン。
小学生でも高学年なら十分理解できるでしょう。
良い質問をされたんで、ぼくも嬉しくなっちゃいました。
嬉しくなると説明にも熱が入ります。
熱が入ると、その熱は相手にも伝わります。
質問してくれた人も熱心に聞いてくれる。
すると説明したことをちゃーんと理解してくれるようになるわけです。

では、ご説明いたそう。
放射光はなぜ前方に強い光を放射するのか。
それは相対論的効果である。
相対論といっても驚くでない。簡単なことじゃ。

ボールを真上に放り投げることを想像してみたまえ。
その人がその場に止まっていれば、見ている人からもボールは真上に放り投げられているように見えるだろう。
当たり前だ。

では、ボールを投げる人を時速50kmで走っているバスに乗ってもらう。
そしてまたボールを真上に投げてもらうのだ。
バスに乗っていない人がそれを見る。
すると、バスに乗っている人が真上に放り投げたボールは、斜め上、バスが動く方向に放り投げられたように見えるはずだ。

次に、ボールを投げる人を時速300kmで走る新幹線に乗ってもらう。
同じくボールを真上に投げてもらう。
新幹線に乗っていない静止している人がそれを見るとどう見えるだろう。
新幹線に乗っている人が真上に放り投げたボールは、やっぱり今度も斜め上、新幹線が走る方向に放り投げられたように見えるだろう。
しかも、バスの時よりももっときつい角度で斜め前方にボールは投げ上げられたように見えるはずだ。

でも、バスに乗っている人も、新幹線に乗っている人も、自分はボールを真上に投げているだけ。
斜め前方になんか投げていない。
地上に静止した人から見るから、バスの速度、新幹線の速度が加えられて、斜め前方に投げ上げられたように見えるのだ。

さて、電子。
電子自身は光は四方八方に放射している。
でも、電子は加速器によってすんごい速さで加速されている。
だから、電子が真上に放射した光だって、新幹線の中で真上に投げあげたボールと同じく、静止した場所から見ている人からは、斜め前方に放射されたように見えるはず。
しかも電子はすんごい速さだから、その角度は新幹線の時よりも鋭い角度になることがわかるだろう。

SPring8などの放射光施設では、電子は光の速さの99.99%くらいまで加速されている。
速度が速ければ速いほど、投げ上げる角度はキツくなる。
こんだけ速いと、電子が真上に放射した光は、地上で見ている人、すなわち実験者からは完全に前方に放射されているように見えるわけだ。

真上だけじゃないよ。
電子が斜め後方に放射した光だって、実験者から見たら前方に放射されているように見える。
なんたって電子はすんごい速さで走っているからね。
つまり、電子が四方八方に放射した光のそのほとんどすべてが、実験者からは前方に放射されているように見えるんだ。

つまりつまり、電子が放射した光ほとんど全部が前方に集まってくるわけ。
一方向にすべての光が集中しちゃうわけだから、放射光はすんごく明るい光にもなるってわけさ。

こんな説明をしたんですが、若者君も目を輝かせて「おお!そういうことだったんですね!面白い!」って言ってくれましたよ。
嬉しいねー。

この質問をしてくれた若者君、学生さんかと思ったら社会人でした。
今年文科省に入省したばかりのキャリア官僚なんだって。
休日返上で理研の一般公開に来てくれたんです。
スバラシイですねー。
日本の未来も放射光のように明るいですよ!
日本の教育と科学のために、突っ走って下さいねー。

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