2012年7月5日木曜日

スパコン開発の戦略

こんにちは

我がスパコン「京」が2位に後退し、世界一の座をアメリカの[セコイヤ」に譲ったこと。
何人かの友人に「がっかりしないで」とかメールをもらった。
うちの女房なんか「落ち込んでない?」だって。
ちーとも。
だって、こっちも増設したり性能あげたりしてがんばったなら、負けて悔しいかもしれないっけど、去年からまるで変わってないんだから。

だから追い抜かれるのは必然。
仕方ないこと。
もともとセコイアは今年中に完成予定だったので、予定どおりってことです。
世界一の座を譲るのは去年からわかってたんです。
もし今回抜かれなかったとしても、次回、秋には抜かれるのは確実。
今回抜かれず1位のままだったとしたら、それは相手がちょいとコケタだけってことですよ。
そんなんで勝っても嬉しくないよね。

アメリカにとってスパコン技術は国防技術です。
セコイヤの主目的は、核開発。
アメリカは近年、核実験をしなくなりました。
なぜなら、スパコンでシミュレーションできるようになったからです。
実験は臨界前までやって、初期条件、境界条件のデータを得れば、あとはスパコンにやらせるわけです。

アメリカも威信をかけて今度は失敗しないようにしっかりやったんだと思います。
今度は失敗しないように、というのは、去年ブルーウォータープロジェクトがコケたことを指します。
もしかするとIBMは、ブルーウォーターを止めることによって、セコイアに注力したのかもね。

悔しくない、と言っても、日本の新聞の見出しに「1位から転落」とか書かれると、ムッとしちゃうね。
別に転げ落ちたわけじゃないしね。

ある新聞には「敗北」「たった1年の世界一」とか書かれてあって、なんだかなー。
こういう見出しを見ていると、なんか日本の新聞は,日本のスパコンが世界一じゃなくなったのが嬉しいみたいです。

「アメリカに大きく水をあけられた」って書いている新聞もありました。
でも性能差は、たかだか1.5倍ですよ。
それもLINPACK性能でです。
「京」が去年、2位の天河の4倍の速度だったのと比べてくださいよ。
4倍くらい差があると、可能な計算が変わってきて、見えるサイエンスも異なります。
でも、1.5倍なら実用上はほぼ同じ性能と言っていい。
実アプリでは、ほとんど変わらないでしょう。
できるサイエンスも同じです。

って負け惜しみに聞こえる?

セコイアに使われているマシンは、IBM製Blue Gene/Qです。
「京」と非常によく似た技術が使われています。
まあ、同時代で同程度のものを作ろうとしているのですから、技術も似たものにならざるを得ないでしょう。
では、どこで差が付いたのか。

1番大きな要因は、時間でしょう。
1年の差は大きい。
ムーアの法則によれば、コンピュータの性能は1年半で2倍になる、わけです。だから1年で1.5倍程度の性能差は当然のことでしょう。

2番目は、半導体製造技術です。
Blue Gene/QのCPUは、なんと18コアもある(計算に16コア、OS専用に1コア、残りの1コアは冗長用)。
「京」に使われているCPUは8コアです。
8コアでもすごいんですが、その倍以上のコアを1チップに作り込んだ。
日本はこれまでメモリのような単純な半導体を主に作ってきました。
CPUのような複雑なものは、汎用品として製造してこなかった。
この部分における技術差は、やはりアメリカにアドバンテージがあるのです。

そして3番目。
戦略がうまい。
今回のtop500リストを見てみると、Blue Gene/Qを使ったスパコンがアメリカに複数台、そのほかにドイツ、イギリス、フランスなどにも設置されています。
つまり、Blue Gene/Qは開発機でありながら商用機でもある。
そこが[京]と違います。
[京]は[京]だけなんです。他にない。売ってない。

アメリカ、IBMは複数台、多数の同じマシンを売れるようにしているんですね。
それによって全体で開発コストを吸収してしまう。
たぶん、アメリカは戦略的に同一機種をいろんな研究所で買うようにしたに違いありません。
日本みたいに、へんてこな平等主義、公平主義で、銘柄指定では買えない、すべて競争入札で購入するから、欲しくもないマシンを買わざるを得なくなったりならないんですな。
商売うまいぜーって思います。

アメリカはセコイアの他にもタイタンという20ペタ超のスパコンを開発中で、これも今年中には完成する予定。
報道によると、タイタンはGPGPUを使ってピーク性能50ペタフロップスにもなるとか。
この秋のtop500で、セコイアもタイタンへと世界一の座を譲ることになるはずです。
そのときも日本の新聞は「セコイア1位転落!」「セコイアたった半年で陥落」とか書くかしら。
書かないだろうなあ。。。

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